朱の月

イベント企画−2/14−

 さて、明後日は何の日でしょうか?



「え? 明後日? …あぁそっか、すっかり忘れてた。だ、だって、兄さんがいなくなってからはあげる人なんていなかったし! うん、前はちゃんと作ってたよ。え! でも8年前だから全然自信ないから、やめたほうがいいって! …そう? じ、じゃぁ、作ろっかな…? んー、せっかくだからファイにもあげよっか。ついでね、ついで」


「もちろん知ってるわよ。女性が想いを寄せる相手に感情をぶつける、聖なる日! もちろんレオナにあげるに決まってるじゃない。むしろレオナ以外になんて誰があげるもんですか。え? ふん、草でもあげておきなさいな、草でも。ふふふ…レオナ、どんなのがいいかしら……。そうね、せっかくだから驚くようなことを…あぁ、そうね。私をあげるとかどうかしら! 逆でもいいわね。部屋に呼び出して脱がせて、身体にかけて、そのあと私が全身くまなく丁寧に隅々まで舐…――――」(強制終了)


「はい。考えてますよ。女性たるものそういう催しものには敏感でないと。私ですか? ファイ様ですよ! 元から腕には自信がありますけど、気合い入れますよー! やっぱりお酒入りとか、そういう大人っぽいものがお好きですかねぇ。知りません? そういうの。……知らないんですか!? 一緒に旅してたじゃないですか! はいはい、そんなのいいですから、早く聞いてきて下さい。なんで俺がって…私が聞きに行ったらあからさますぎますからね。ほらほら!」


「おう、楽しみだよなー。……あたしが? だーれが作るかあんなもん。明後日はもらう日なんだよ。あたしのこと慕ってるやつとか、領民とか、山ほど持ってくるぞ、毎年。甘いもんばっかじゃ飽きるって言ったら、何人かしっかりしょっぱいもの持ってきてなー、すげぇだろ」


「んん? なにー? 明後日? 知らないわよ。………あ、そう。へぇー。まぁあたしには関係ないことだし? あ、くれるっつんならもらうよん? だよねぇー、別に欲しくないけど。用事ってなに、それだけ? んじゃもういいっしょ! はい、さっさと帰ってー」




「…というわけだけど、どう? 2こはもらえそうだよ?」
「……お前はなにをしてんだ」
 ずいっとマイクをファイに向けて差し出したユーリは、好奇心を包み隠さずに目に宿している。それを邪魔そうに手で払い、距離を取る。
 しばらく前から姿を消していたと思ったら、こんなくだらないことをしていたとは。
「えぇー、大事なことでしょ? ファイ、その歳でもらうって、“本命”くらいだよ? そろそろお嫁さんもらったほうがいいんじゃ、」「うるさい。大人のことに口をだすな」
 彼は、不満気だが楽しそうという、なんとも器用な表情をしながら、下げられたマイクをもう一度突き出す。
「せっかくレオナにも作ってもらうように唆してきたのにー、嬉しくないの?」
「なぜ俺が嬉しがると思ったんだ」
 強い口調で言うが、ユーリは全く意に介さずに目を丸くした。
「え、だってレオナのこと好きなんでしょ?」
 思わず膝から崩れてしまいそうになるのを、なんとか堪えた。
 なんだそのなんの根拠もない発言は。
 そもそも、誤認をあたかも事実のように受け入れているのかがわからない。そういえば初めからなぜか間違った解釈をしていたが、それがここまで根付いているとは思ってもいなかったのだ。
「俺があいつに好意を持っているわけがないだろ」
「じゃあ嫌いなの?」
「…お前はガキか」
「まだこどもですー」
 都合のいい時だけこどもの振りしやがって。
 殴り飛ばしたい衝動に駆られたが、ここで手を出してはこちらの負けな気がする。なにに負けるのだと言われても思いつかない。それでも負けだ。
「お前こそどうなんだよ」
「俺? 俺はそりゃ、色んな人からもらうよ。ファイなんか比べ物にならないくらい」
「あーハイハイ」
「うっわ、信じてないね」
「どうでもいい」
「自分で聞いたんでしょー!?」



 いざ決戦の日。
 口に出さずとも自信のあったファイはだが、出所が不明なもののユーリに僅差で負け、これ以上ないほど見下されたのであった。

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